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伝えることの大切さを教える「高校生への出前授業」【社長・なべの部屋】

高校 出前授業

15年前から、私は高校生向けの授業を担当しています。
発端はある通信制高校の理事長からのオファーでした。

「学校として初めて合宿をおこなうのだけど、そこでクリエイティブのノウハウを活かした特設授業ってできませんか?」というものでした。

企業の人材採用を中心に、広告制作を手掛けてきた私にとって、人に教えるという経験はあまりなく…しかも高校生を相手になにができるのだろうか、と思案する日々が続きました。

結果的に私の他、動画撮影・編集をしてくれる仲間も呼んで、生徒4~5名でチームをつくり、各チーム1本の映像作品を手掛けてもらうという「表現技術の授業」を企画しました。

「伝える」は広告そのもの


生徒チームは監督、脚本、撮影、演出、演者など役割を明確に分担してもらうことで、1人でも欠けたら作品はできあがらないという体制を組みました。
つまり全員参加が原則です。

そして以下のポイントをしっかりと議論してもらいます。

誰に(ターゲッティング:友人?家族?未来の自分?)
何を(伝えるべき情報:作品が伝えたかったこと)
どのように(プランニング:自分たちで解釈した表現で)
どんな手段で(実作:ショートムービーで)伝えるか?
⇒そして、その映像を見た人に「なにをプレゼントできるのか」


これ、広告制作の基本なのです。
でも実は、広告だけではなく、どんな仕事でも当てはまる思考の順序でもあります。

実はこの高校、当初は他校からドロップアウトしてきた生徒や自閉症スペクトラム障害を持つ生徒、コミュニケーション障害を持つ生徒など、何かしらの課題を抱えている人が多い状況でした。

だからこそ、今まで独りでの行動は慣れていても、チームで協働して一つのモノを生み出すという経験がほとんどありません。

しかし、自分の考えを他人にアウトプットするという行動は、どのような進路であれ、社会では求められます。
そしてチームワークを経験することで自分にはない考えやアイデアをお互いに尊重しあえば、想像を超えるモノを生み出すこともできます。

「チームでのモノづくり」で得られた生徒の成長とは

私たちの授業は、いわゆる正規の授業とは異なり、特設授業としての位置づけなので、成績に関わるものではありません。
映像のクオリティについても正直なところ、重要視していません。

それよりも、チームを組むことでのシナジーを一番大切にしています。
そして何よりもモノづくりを楽しむこと。

以来、15年。その間に社会的にも通信制高校のイメージが大きく変わりました。
私たちが携わっている高校は進学率が飛躍的に向上したり、中には授業をきっかけに映像制作の道へ進んだ卒業生も出てくるまでになりました。

そして一番、成長させてもらったのは、実は私たち大人です。

「教えることは教わること」。
教育業界ではよく耳にする言葉ですが、本当にその通りだと思います。

今まで関わった生徒数は延べ400名。
ひとり一人のお顔を決して忘れることはありません。全ての出会いが財産です。

毎年授業の最後に、自分たちがつくった作品の上映会を行い、コンテスト形式で表彰も行っています。
1年目の授業の最後に、ある男子生徒は涙を浮かべてこう話してくれました。
その生徒は前の高校で問題児扱いをされて、留年・退学をしてしまった経験がありました。

「先生、俺は生まれて初めて、自分の名前が書いてある賞状を見たよ」

なにか劇的に変わるわけではありません。
でも、確実に、微力ながらクリエイティブの力で目の前の一人の将来を、わずかに変える一歩になっていると実感しています。

そして今年も、始まります。
新しい生徒たちと出会い、彼らや彼女たちからまた教わってきます。

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